いずれにしても、そのとき耳にした「わかっていることは、わからないということだけ」という言葉は、私がこのユーラシアの旅で学ぶことのできた最も大事な考え方のひとつとなったのだった。
(注)沢木さんは、タイのバンコクで、赴任して1年という日本人夫妻と知り合いになります。「 」は、そのご主人が、タイ人の時間の観念、食事の習慣、金銭感覚、政治経済上の問題などにより、経験したり見聞きした悲喜劇のエピソードを語り終えた後に、溜息混じりに言った言葉です。
第三章“旅を生きる”より
バスの窓だけではない。私たちは、旅の途中で、さまざまな窓からさまざまな風景を眼にする。
(略)
しかし、旅を続けていると、ぼんやり眼をやった風景の中に、不意に私たちの内部の風景が見えてくることがある。そのとき、それが自身を眺める「旅の窓」になっているのだ。ひとり旅では、常にその「旅の窓」と向かい合うことになる。
(略)
「おれがいおうとしたのはそれだよ、坊や。窓の外を見たり、なにかほかのものを見るとき、自分がなにを見てるかわかるかい?自分自身を見てるんだ。ものごとが、美しいとか、ロマンチックだとか、印象的とかに見えるのは、自分自身の中に、美しさや、ロマンスや、感激があるときにかぎるのだ。目で見てるのは、じつは自分の頭の中を見ているのだ」
フレドリック・ブラウン『シカゴ・ブルース』(青田勝訳)
第三章“旅を生きる”より
シカゴ・ブルース (創元推理文庫 146-15)
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